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書評「母性」 [書評・映画評]


母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)



アパートの4階から女子高校生が転落した。
後に判明するが意識不明の重体。新聞記事には発見者の母親の
コメントが載っていた。

この冒頭1ページの記事に違和感があってしょうがなかった。
それは作者が意図して違和感が生じるように書いたものだと
すぐに判明する。記事を読んだある高校教師が違和感を覚える。
それも後に判明するが、その高校教師も高校生時代に自殺経験が
あり、母親がまったく同じ言葉を発していたことを思い出した
ことが心に引っかかった。

2ページ目から母親の手記と意識不明の娘の回想。おそらくは
走馬燈のようにこれまでのことを思い出しているんだろう。
そして高校教師の短い語りが各章で並行して書かれていく。
どれも一人称。だからそれぞれにとっては真実のことながら、
同じ事を述べていても、母の手記と娘の回想ではいろいろな
部分が食い違い、最後まで終生はされない。
本来小説にはかかせない「神の視点」が一切ないから、何が
事実だったのか、最後までわからない。

読み進めながら、この高校教師って誰なんだろう、なぜこの
人物の話が挿入されているのだろうか、ずっと謎のまま。
母の手記にも娘の回想にも該当する人物が出てこない。
なのに、読み進めていくと、母の手記・娘の回想に出てきたと
思われる人物が高校教師の行く先に登場してくる。しかし
どう考えても年齢が合わない。
おまけに、意味不明のミスリードが仕掛けてある。
そんなミスリード、必要ないだろうと思っていたが、最後まで
読んで意味がわかった。もう一つ重大なミスリードがあり、
それを隠すためのミスリードだったのだと。まんまと
作者の罠にはまってしまった。最終章ですべて判明。実は
冒頭1ページから仕掛けてあったのだ。

2ページ目から始まる母の手記は読んですぐに気持ち悪く
なった。読んだのを後悔しそうな気分悪さ。そして
救いのないままに中間部の重大事件に入り、嫌な気分ばかりが
残る。

母は限りない愛情を娘に注ぐが、娘は母には愛されなかったと
受けとめる。独りよがりの愛情。そして愛情のスレ違いのまま
最終の悲劇へと移る。
愛情のすれ違いにいたたまれなくなった娘はついに家の庭の
桜の木で首つり自殺をはかる……

え、えっ、え???どういうこと?何で何で???

枝が折れたのと発見が早くて命は助かった物の意識不明。
見事にしてやられた。
そして最終章。高校教師だけの語りになって、すべての謎が
解けるけれど、当然、そういうことなんだなと。

最終場面で初めて母娘の名前が出て来る。ひょとすると、
これもミスリードさせるために最後まで伏せていたのかも
しれないが、こちらこそ完全に伏せている意味がなかった
ような。

一人称ばかりで書かれているから、いくつかの謎は残った
ままだが、それは仕方ないかも。しかし愛情のすれ違いが
悲しくて仕方ない。結局は最後まで気がつかずに過ぎて
いくのだろう。

昔ある哲学者が言った。人は女に生まれない、女になるのだ、と。
母というのもそうなんだろうな。それを作者は言いたかった
のだろう。

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